──フェルナンド=サンス=オルヴィシアラ。

穏やかな水の民が暮らすオルヴィシアラ王国の現王太子で、王家が代々受け継いでいる黒髪と青い瞳を持つ青年。穏やかで真面目な人間だとエレノスは聞いていたのだが。

「──ああ、エレノス閣下っ…! 私の弟ヴァレリアンは本当にご無事なのですか!?」

エレノスが急いで応接間に到着すると、涙で顔をぐちゃぐちゃにしているフェルナンドが駆け寄ってきた。随分と情報と異なる人のようだ。

「……フェルナンド王太子殿下、ですね?」

「ええ、ええっ…!私はオルヴィシアラのフェルナンドでございます。本日帰国予定でしたが、ヴァレリアンが心配で心配でっ…」

エレノスは困ったように眉を下げた。心配なのは分かるが、ヴァレリアンは会いたくないと言っていたのだ。

「先ほどローレンスが申し上げたと思うのですが、ヴァレリアン殿下はお休みになられています。日を改めて頂けますか?」

「そんなっ…! 愛する弟の顔を見ることも叶わないのですか!?」

縋り付くような眼差しで膝をついているフェルナンドを立たせ、エレノスは「心中お察しいたしますが」と言葉を濁らせた。

立ち上がったフェルナンドはエレノスの両手を掴むと、瞳を潤めかせながらエレノスを見つめる。