──それじゃあ私は戻るから。またねリアン。

またリアンと話すことができて嬉しかった。そう言うと、クローディアはリアンが身体を休めている客室から出て行った。

入れ替わりにリアンの元を訪れたのは、クローディアの兄であるエレノスだった。

「お加減は如何ですか? ヴァレリアン殿下」

クローディアと同じ銀髪に菫色の瞳を持つ、帝国の皇帝の弟。正式な文書には記していないそうだが、皇位継承権は放棄するともう一人の弟と共に公言しているとか。

「…閣下がここに運んでくださったと聞きました。ありがとうございます」

「お礼を言うのはこちらの方です、殿下」

エレノスは優美な微笑みを浮かべた。白銀の美しき兄妹などと噂されるだけあり、その美貌は思わず目を見張るほどのものである。

髪は胸下辺りで綺麗に切り揃えられ、世の女性たちが見たら羨むであろうくらいに睫毛は長く、肌は白い。少し長めの前髪が目にかかっているせいか、表情に翳りがあるように見えた。 

「ディアを、クローディアを助けてくださりありがとうございます。侍女に聞いたのですが、城下でも助けてくださったようですね」

「…偶然通りかかっただけなので」

「クローディアは幸運だ。貴方のような方に逢えて」

偶然が重なっただけだというのに、クローディアといいエレノスといい、この美しい兄妹は奇跡を見てしまったとでも言いそうな口調で言ってくる。