「私にとって、リアンはリアンよ。王子様だって聞いた時は驚いたけれど、そう教えてくれなかったのは、私のことをディアとして見てくれていたからでしょう?」

クローディアにとって、リアンはリアンだ。ヴァレリアンでも王子でもない、一人の男の子。それはリアンにとっても同じで、ディアはクローディア皇女だが、リアンにとってはディアという少女だった。

それは、ありのままの姿でいた時に出逢ったからかもしれない。

「……うん。ディアはディア。綺麗な目をしてる、女の子」

「なら、それでいいの。…ありがとう」

リアンは瞳を揺らした。ありがとうと言われたことに驚いたのだ。

ひょいっと何かを抜かれたような顔をしているリアンを見て、クローディアは花開くように微笑んだ。

「私と出逢ってくれて、ありがとう。リアンがいなかったら、私は今こうしていられなかったかもしれない」

「…大袈裟だな。俺なんて……」

そんな風に、真っ直ぐにありがとうと言ってもらえる資格なんてない。そう言いかけたが、リアンは途中で言葉を飲み込んだ。

「……こちらこそありがとう。ディア」

クローディアの笑顔は果てしない雪原で見つけた一輪の花のようだった。今にも消えてしまいそうな儚さを持っているというのに、強かで美しい。

穢れのない微笑みを前に、本当はあのまま死んでも構わなかったのだと告げることは、できなかった。