何から話せばいいだろうか。何から話すべきだろうか。二人は長い沈黙の中で、互いに同じことを考えていたが、そこから先に抜け出したのはリアンだった。


「──ごめん、ディア」

リアンは弱々しい声でそう呟くと、痛む体に鞭を打ってゆっくりと起き上がった。そうしてまで伝えたいことがあるのだ。

「……それは私もよ。リアン…」

クローディアはリアンの背に大きめのクッション置いて、ベッドの隅に腰を掛けた。そして真っ直ぐにリアンの目を見つめ、震える唇を開いた。

「リアンは、王子…なの?」

縫い付けられたようにベッドシーツを見つめていた瞳が、ゆっくりとクローディアへと向けられる。その目は今日も澄んでいて、綺麗な青だった。

「そうだよ」

リアンはクローディアを見つめ返し、はっきりと言った。そしてクローディアの指先にそっと指を絡めると、前を見据えたまま声を放つ。

「俺の名は、ヴァレリアン=フォース=ルケテルゼ。…ディアは、帝国の皇女のクローディア、でしょ?」

クローディアはこくりと頷き、リアンに触れられている場所へと目を動かした。

リアンの手は今日も冷たかった。だけど、触れられると胸の辺りが温かくなったような気がして、こうしてまた話ができていることがたまらなく嬉しかった。

あのまま二度と目を開けなくなってしまっていたら、後悔してもしきれなかっただろう。出逢ったことに、その手を取ったことに。

リアンはクローディアの心に、灯火をくれた人だったのだから。