『──汚れた血が』


その言葉は、生まれた時から言われてきたことだ。

太陽神アターレオを唯一無二の神とし、崇め奉るオルヴィシアラ王国にとって、陽光の色である黄金は神色──すなわち人が触れてはならない禁色とされた。

金色の髪をしているリアンが生まれた時、人々は神がお怒りになったのだと嘆いた。リアンと同じくその母親も生まれながらに金髪で、大陸の南地方出身であることは神官も知っていたというのに、リアンは人々から疎まれていた。


──いっそころしてくれればいいのに。

幼き頃より、リアンはいつもそう思っていた。しかし、王国は生命を尊び、それを自ら絶つことと殺めることは決してしてはならないという神の教えがあり、リアンは死ぬことも許されなかった。

だからだろうか。刃物を持った男が飛び出してきた時、繋いでいた少女の手を強く引いて、自ら盾となった。

これでようやく楽になれると、そう思っていたのに──。

『リアン…リアンっ…!!』

菫色の瞳の少女は、母に置いていかれた子供のように、声を上げて泣いていた。人目も気にせずに、繋いでいた手を離さないまま、顔を歪めながら涙をこぼしていた。

互いに本当の名も家の名も知らない、ただ偶然出逢っただけの何の関係性もない自分のために、少女は泣いてくれたのだ。そんな優しい存在を前にして、このまま楽にさせてくれとは言えなかった。

(──やっと、笑ってくれたのに。そんなに泣かないでよ)

薄れゆく意識の中でそっと掛けた願い事は、神の耳に届いただろうか。