「ディアっ!!!!」
「クローディア皇女殿下!!!」
衛兵よりも先にクローディアの元に着いたエレノスは犯人を羽交締めにすると、華麗な体術で床に張り倒した。
そして遅れてやってきた衛兵に犯人である男を縛り上げさせると、取り上げた刃物を床へと投げ捨てる。
「よくもディアをっ…!」
今にも殴りかかりそうな勢いで、エレノスは男の胸ぐらを掴んだ。男は貴族のふりをして紛れ込んでいたのか、形は貴族だがよく見ると薄汚れた肌をしている。
「──汚れた血がっ…!!」
男は燃えたぎるよう目でそう吐き捨てる。
「汚れた血…?」
何人も妃や政治家を輩出しているオルシェ家は、由緒正しい家柄だ。ならばその言葉は、クローディアと踊っていたリアンに向けられたものだと考えられる。
エレノスは小刻みに震えているクローディアを抱き締めると、怪我はないか、痛いところはないかと尋ねた。
クローディアはぼろぼろと涙をこぼしながら、何度も頷く。その手はリアンとしっかり繋がれており、クローディアを庇うようにして倒れたリアンの脇腹の辺りからは血が流れ出ていた。
「リアン…リアンっ…!!」
「落ち着くんだ、ディア。すぐにここから運び出そう。だから殿下の手を離しておくれ」
「いやっ、リアンっ…」
「ディア!」
子供のように泣き始めたクローディアを、エレノスはリアンから引き離し、ラインハルトの腕に抱えさせた。
そしてここから連れ出すよう命じると、皇宮医の手配、犯人の投獄、ローレンスに賓客を部屋で休ませるよう命じると、妹を庇い怪我をしたリアンの手を取った。
「ヴァレリアン王子殿下。クローディアを守ってくださりありがとうございます。…必ずやお救いいたします」
経験したことのない鈍い痛みに耐え、顔を歪ませていたリアンは、エレノスの優しい声音に、柔い手の温度に、息を吐くように意識を手放していった。