ふたりがホールへと足を踏み入れると同時にワルツが始まった。前奏の間にパートナーを捕まえた人は互いに見つめ合うように、寄り添うようにして軽やかにステップを踏み出している。

その片隅に滑るように入ったクローディアとリアンは、瞬く間に人々の注目の的になっていた。

「──ご覧になって。クローディア皇女がオルシェ公の御子息以外の人間と踊っているわ」

人々は驚いていた。これまでエレノスやローレンス、ベルンハルト以外の男性からの誘いは全て断っていた皇女が、誰かと踊っている。それも滅多に目にすることのない金色の髪を持つ青年と。

「あの金髪の貴公子はどなたかしら? 綺麗な方ね」

「皇帝陛下と太皇太后様以外で初めて見たわ。親類なのかしら?」

金髪はアウストリアでは珍しいものだった。周辺の国々でもおらず、大陸の南側にあるどこかの国の民族しかいないと言われるほどである。

そんな珍しい色をしているリアンの髪は肩の辺りで綺麗に切り揃えられ、瞳は深い海のように青く、雪のように白い肌をしているリアンは、クローディアの隣に立っても花のある容姿をしていた。

その光景を二階から眺めていたルヴェルグは、ワイングラスを置いて立ち上がると、柱に背を預けながらクローディアを見つめているエレノスの元へと歩み寄る。

「エレノスよ、あの青年に見覚えは?」

「…初めて見ます。南の方からいらしたのでは?」

次いで、こういうことはローレンスの方が詳しいとエレノスは笑う。