クローディアはどうするべきか迷っていた。
自分は主催国の皇女だ。おもてなしをする側である為、会場に戻らなければならない。だが、戻った先にはフェルナンドがいる。

あの人を見て、なんでもないような顔をしていられる自信がなかった。今はまだ、あの辛い日々が昨日のことように思い出せてしまうから。

しかし、いつまでもここにいるわけにはいかない。中々戻らないことを兄たちが心配しているはずだ。一体どうしたものだろうか。

「あーもう、しょうがないな」

悩むクローディアへと、リアンは手を差し出した。それは傷ひとつない綺麗なクローディアのものとは違い、所々あかぎれや切り傷があった。

「──お手をどうぞ」

「リアン…?」

「何を悩んでるのか知らないけど、堂々としてた方がいいよ。でないと足元を掬われる」

この世界は狐と狸で溢れてるから、とリアンは付け加えると、クローディアの手を掴んだ。そうして菫色の瞳を真っ直ぐに見つめ、躊躇いがちに口を開く。

「こんな格好つけたことしてるけど、俺だってあそこから逃げてきた身だから。ひとりは怖いけど、ふたりなら多少マシでしょ?」

だから一緒に戻ろうよ、と。そう言って、リアンはクローディアの手を引いて歩き出した。

中庭を抜けて人通りのある広い回廊に出ると、リアンはクローディアの手を上へと持ち上げ、女性をエスコートする形へと変わる。そのどこかぎこちない動きが新鮮だったクローディアは、自然と笑みを浮かべていた。