クローディアはゆっくりと顔を上げ、フェルナンドと同じ色の瞳を見つめた。まだこの目で見たことがない海の色だ。
どこまでも広がっていて、たくさんの魚が泳いでいるのだと、あの人は言っていた。穏やかだった頃のことを思い出してしまい、ツンと胸が痛んだ。
「……会いたくない人に、会ってしまっただけよ。なんでもないふりをしようとしたけれど、逃げ出して来てしまったの」
分かっていたのに、いざ目の前にしたら逃げ出してしまっていた。強くならなければならないのに。前を向いて歩き出さなければならないのに。
「…会いたくない人、ね」
リアンのその言葉をさいごに、しばらくの間、二人は無言のまま向き合っていた。
重く、長い沈黙がふたりの間に流れ、やがて先に口を開いたのはリアンの方だった。
「…顔も見たくない人っているよね。俺なんて見たくない顔ばかりだから、パーティーなんて大嫌いだよ」
だから中庭でサボっていたのだとリアンは笑うと、横髪を耳にかけた。
「窮屈だよね。みんな仮面被って、相手の腹の中探ってさ」
リアンが誰のことを言っているのかは分からないが、その言葉にフェルナンドの姿を脳裏に浮かべたクローディアは小さく頷く。
「そういう世界なんだっていうのは分かってるけど、やっぱり俺には無理だ」
「来たくなかったの? リアンは」
「できればね。相手が帝国だから仕方なく参加しただけ。早く帰って昼寝がしたいよ」
クローディアは笑った。自分の周りにはリアンのように思ったことをそのまま言う人間がいないから新鮮だった。


