自分が生まれた日に母を亡くしたクローディアは、物心ついた時に自分には何故母がいないのかと尋ねたことがある。
母に代わり傍にいたエレノスは、いつも悲しそうに微笑んでは「自分がずっと傍にいるから大丈夫だ」と抱きしめてくれた。
あの時のエレノスの表情が、クローディアは今もずっと忘れられない。
「…私は、時折思ってしまうのです。私さえ生まれなければ、母は生きていたのではないかと」
「いいや、それは違いますぞ」
掠れた声で、ロバートは紡ぐ。
もういない両親と祖父母の代わりだとでも言うかのように。
「あの方は元より長く生きられなかったのです。子を産めないかもしれないとも言われておりましたが、それでも構わないと先の皇帝陛下に望まれ、ここに嫁がれた。…オルシェ公は猛反対されておりましたがのぅ」
「──喋り過ぎだ、爺」
故人のことを語るふたりの間に、よく聞き知った声が割って入った。颯爽と現われたのは、二人が懐かしんでいた人の兄だった。
「ご機嫌麗しゅう、皇女殿下」
「伯父様…!」
ラインハルトはクローディアに敬礼をすると、何でいるんだとでも言いたげな表情でロバートを見ていた。どうやら二人は仲良しのようだ。


