──私のことは爺とお呼びくだされ。…何故そう呼ぶのか?それは友と約束をしたからでございます。
いつの頃だったか。そう言って、クローディアの頭を撫で、お菓子をくれたエメラルドの瞳のお爺さんがいた。今思えば、あの人がロバート伯だったのだろう。
なんだか懐かしい気持ちになったクローディアは、ロバート伯を見上げて微笑んだ。
物心つく前に祖父は亡くなってしまったから、クローディアは祖父のことを名前しか知らないが、もしも生きていたとしたら──きっとこんなふうに自分のことを優しく見つめてくれる人なのだろう、と。
「…まことにソフィア様の生き写しですな」
ソフィア。オルシェ公爵家の現当主・ラインハルトの妹であり、クローディアとエレノスの生母。自分を産んで亡くなってしまった母の名を聞いて、クローディアは俯きそうになった。
とても美しい人だと、皆口を揃えて言っていた。銀色の髪に灰色の瞳を持ち、淑やかで百合の花のような人だったとも。
「…母上と私は似ていますか?」
恐る恐る問いかけたクローディアに、ロバートは柔らかに微笑み返した。
「似ていらっしゃいますとも。ソフィア様の瞳はグレイでしたが、それ以外はそっくりですぞ。可憐さは皇女殿下の方が勝っておりますが」
南の宮にある庭園でよく散歩をしていたこと。エレノスに読み書きを教えていたこと。子は望めないと言われていた身体だったこと。
自分の知らぬ母のことを聞いて、クローディアの胸に寂しさに似た何かが募る。それはアルメリアに抱いた感情とよく似ていた。


