兄妹で一番明るく社交的な性格をしているローレンスは、瞬く間に沢山の人に囲まれていた。商人、貴族、皇族に教会の人間など、帝国と取引がしたい人は皆、ローレンスに声を掛けては顔と名と商品を売ろうとしていた。

ローレンスは皇帝の弟だが、帝国の筆頭貴族・ジェラール公爵家出身の母親を持つ為、その人脈と幼き頃から積み重ねてきた為政者としての手腕は皇帝にも引けを取らない。

皇帝となっていたら歴史に名を残す名君になるであろうに、と思う者は多いが、美女を見ては花を贈りデートの誘いをする姿を見て、皆開きかけていた口を閉ざすのだ。残念な男だ、と。


「おや、共にいらっしゃるのはクローディア皇女殿下では?」

公の場に皇女を連れているのを見て、一部の貴族は皇女の伴侶候補を探し始めたのではないかとも考えていた。

帝国の成人は十五才、皇女は今年で十六となると、そろそろだろうと。

十代後半の息子がいる貴族達は、ここぞとばかりに皇女へと足を進めたが、一人の老人がそれを阻んだ。

その指には先の皇帝が贈った、紫色の宝石が埋め込まれた指輪が光っている。それを見た貴族の一人が、その老人の名を呟いた。──ロバート伯、と。


「暫くぶりですな、ローレンス閣下」

深みのある声に、ローレンスは弾かれたように振り返る。

「おお、爺ではないか!何年振りかね」

兄の嬉しそうな声を聞いて、クローディアも振り返った。そこには白い長髪の男が佇んでいた。

見た目は六十を過ぎた頃だろうか。整えられた髭とエメラルドの瞳が特徴的な男性で、静かな眼差しで二人を見つめていた。