──悪夢から目を覚まし、自分の元に来るなり泣きじゃくっていたあの日から、クローディアの何かが変わったのではないか。

そう考えたローレンスは、ソファから立ち上がりクローディアに向き直った。

「ディアよ、僕は使節団の方に挨拶をした後、オーグリッドの太子とも話す予定なのだが、君も共に来るかい?」

今日のクローディアを見て、ローレンスは妹がこれから皇女として表舞台に立つことを望むならば、第一歩となる機会を与えようとしていた。

ローレンスは皇帝の補佐をするべく政務に携わっている。世界各国の商人と物品の取引をするのが主な仕事だが、相手は商人だけではなく君主も多い。国の顔として話をするのは妹のためになるだろうと考えていた。

「オーグリッドは、北の方…でしたっけ?」

「そうとも。最北にある雪国、オーグリッド大国は希少な鉱物と上質な毛織物の産地でね」

皇女である自分がその場に立ち会って良いものなのかとクローディアは悩んだが、無意識に見つめてしまっていたルヴェルグに微笑まれ、深く頷かれた。

「行ってくるといい。ついでにそなたの微笑みで私の好きなトロイ石を値切ってきてくれ」

「ふふ、分かりました。では行ってまいります」

トロイ石とはなんだろうか。毛織物がどんなものなのか、またオーグリッドはどのような国なのか。ただ純粋に知りたいと思ったクローディアは、ルヴェルグに退出の礼をするとローレンスの後に着いて行った。