アウストリア帝国の皇宮は、城の中央に位置している。皇帝の住居、執務室、政治家や騎士たちの執務室や訓練場、そしてほとんどの行事を行う会場となるホールもここにあった。

クローディアがここに来たのはオルヴィシアラに嫁ぐ前夜祭の時以来だ。豪奢なシャンデリア、ベルベットのカーテン、彫刻のような柱や古の模様が彫られている白い壁。
それらを懐かしい気持ちで見回したクローディアは、きゅっと唇を引き結んで足を踏み出した。


「──エレノス閣下、ローレンス閣下、クローディア皇女の御成りっー!」

大陸一の国力を誇る国の皇位継承者たちの登場に、会場にいた誰もが胸を高鳴らせた。

蝶よ花よと大切に育てられていた皇女のクローディアはともかく、今年で二十歳のエレノス、十九歳のローレンスの皇弟二人が未だに独身であることは、貴族の娘たちの希望の光であった。

エレノスもローレンスも皇位継承権を放棄すると公言しているが、現皇帝には妃も子もいない。皇帝に万が一のことがあればどちらかが皇位を継ぐことになり、その妻となればもしかしたら自分が皇后になれるかもしれないのだ。
少女たちが妻の座を狙うのも無理はない。

兄たちとともに二階の皇族専用のスペースに到着したクローディアは、久方ぶりに会うルヴェルグに深々と敬礼をした。

ルヴェルグにとっては二ヶ月ぶりだが、クローディアにとっては二年ぶりだった。