建国祭当日。式典後に皇族全員が民の前に姿を現すという一大イベントを控えたこの日、クローディアはあの日と同じ薄紫色のドレスを身に纏い、エレノスの迎えを待っていた。

今日はフェルナンドと出逢った日でもある。
あの時ベルンハルトを迎えに行かなければ、フェルナンドと出会うことはなかっただろう。

そう思い返したクローディアは、あの日エレノスが選んでくれたイヤリングを手に取り、アンナに着けてもらった。

「──お綺麗です、皇女様っ…!」

感動したように目を潤ませながら自分を見上げるアンナを見て、クローディアはある事を閃いた。

「そうだわ…! アンナ、こっちへきて」

あの日アンナはホールで給仕に駆り出されていたが、今日は建国千年目を祝う日。式典とダンスが終わればその後はパーティだ。

アンナにも楽しんでもらいたいと思ったクローディアは、アンナにもドレスを着せ、皇女の侍女の証である花のブローチを胸元に飾った。

「こ、皇女様!? 私はこんなものを着る資格なんてっ」

「いいから、アンナも一緒に行くわよ」

皇宮に勤める侍女は下級貴族から人気がある。ましてや皇女の侍女ともなれば、是非嫁にと望む貴族は多いはずだ。

時が戻る前は、自分に仕えていたせいで巻き込まれ、酷い目に遭ってしまったが、今度こそ幸せになって欲しい。


「──待たせてすまないね、クローディア」

二人が支度を終えると同時に、応接間の扉が開く。そこにはあの日と同じ紫色の礼服を着た兄の姿があった。

エレノスは上から下までクローディアの姿を見るとにっこりと微笑む。

「うん、とても綺麗だ。よく似合ってるよ」

ありがとう、とクローディアがはにかむと、エレノスの後ろからローレンスがひょっこりと顔を出した。

「やあ、クローディアよ。ご機嫌はいかがかな?」