「どうしたんだ、ディア。…むむ、もう熱は下がったようだが…」

ローレンスは子供をあやすような手つきでクローディアの背を撫でると、そのまま横に抱き上げ近くのベンチまで運んだ。そして、クローディアの涙を指先で拭うと、ぽんぽんと頭を撫でた。

「泣くことで心が落ち着くのなら、いくらでも泣くといい。ディアが笑えるようになるまで傍にいるとも。…しかし、それだけでは寂しい。できることなら、涙の理由が知りたい」

でなければ、寄り添うことはできても理解することが難しい、とローレンスは困ったように言うと、クローディアの額に短い口づけを落とした。

「…ローレンス兄様…、アルメリアは…?」

「アルメリア? それならここら一帯に咲いているものだよ。美しいだろう?」

「違う、そうではなくて…!」

そうではない、私の子であるアルメリアはどこにいるのか。そう問いたいのに、ローレンスを見てあることに気づいたクローディアは口を閉ざした。

「…ディア?」

どうしたのかね、と心配そうな目でクローディアを見るローレンスの手には、皇子の証である指輪が嵌っていた。それだけではなく、最後に会った時と比べて雰囲気が異なっている。

気のせいかもしれないが、クローディアの知るローレンスよりも幼く見えるのだ。

「…ねぇ、ローレンス兄様」

クローディアはそっとローレンスの胸を押し、ゆっくりと顔を上げ、自分と同じ紫色の瞳を見つめた。