「……どういうこと?…私は帰ってきたの?」
クローディアは瞠目した。今いる場所は、どこをどう見ても帝国で暮らしていた時の自分の部屋だった。
「皇女様ったら、怖い夢でも見ていたのですか? 皇女様はずうっとここにおられましたよ」
アンナはふふっと笑う。
(……ずっと、ここにいた?私が?)
いいや、そんなはずはない。クローディアは王国に嫁いで王太子妃となり、世継ぎを産んだ後に寝たきりになっていた。
身体が辛くて苦しくてどうしようもなかったある日、何故かローレンス兄様の声が聞こえたと思ったら、急激に眠くなって──そうして目が覚めたら帝国の自室にいる。
クローディアはハッと顔を上げた。
「アルメリアはっ…!?」
クローディアは息子の存在を思い出し、ベッドから這い出た。産んでから一度も顔を見ることすらできなかった我が子は今どこにいるのだろう。
「……? 庭園でローレンス様がお世話をされていますが…」
クローディアは駆け出した。
これが夢か現実かは分からないが、あの子がどんな顔をしているのか、元気でいるのか、ただそれだけでも確かめたい。
(夢でもいい。あの子に逢えるのなら)
クローディアが走る姿を見た使用人たちは、皆動きを止めてその姿を凝視した。中には悲鳴に近い声を上げる者もいれば、花瓶を落とす者もいた。それほどまでに衝撃的な光景だったのだ。
建物の外に出たクローディアは、ローレンスが政務そっちのけで過ごしていた場所である庭園へと向かった。
人より体力のないクローディアは息を切らし、途中で足を止めそうになったが、アルメリアに会いたい一心で走り続けた。