アウストリア帝国皇帝の代理として、王子生誕の祝いにオルヴィシアラへと向かったローレンスは、予定よりも早く帝国に帰還することとなった。

その帰路では“黒の御旗”──帝国内で尊い人が亡くなった時に民に報せる旗を掲げ、帝国民を驚かせた。


「──ルヴェルグ皇帝陛下。ローレンス=ジェラール=ヴァルハイム。只今戻りました」

帝国に帰還したローレンスは喪服に身を包み、クローディアの棺とともに謁見を願い出た。

皇帝ルヴェルグは王国で起きた事の詳細をラインハルトからの早馬で報告を受けていたが、とても信じがたい事だったので、その目で見るまでは受け入れないようにしていた。


「…黒の御旗を掲げていたそうだな」

「…はい、“兄上”。我らの妹、クローディアが亡くなりました」

ルヴェルグは玉座から立ち上がると、棺に駆け寄った。その中は硬く目を閉ざしているクローディアの姿がある。

「……何故こんなに窶れておるのだ。嫁ぎ先で幸せに暮らしていたはずのディアが、何故このような目に…?」

分からない、とローレンスは首を横に振った。分からないけれど、もう少し早くに王国を訪れていたら、クローディアは助かっていただろう。

ただそれを悔いることしかできないローレンスは、茫然とした足取りでやって来たエレノスを抱き締めると、声を上げて泣いた。