今日はオルヴィシアラ王国で新王の戴冠式が執り行われる。

今からふた月前に王国は国王を失ったが、帝国の皇帝──ルヴェルグ一世の命により遣わされた皇弟ローレンスが、前王ロイスチェラムとオルシェ公とともに腐敗した政治体制、及び宗教制度を撤廃した。

一部の貴族からは非難の声もあったが、王国の貴族は揃いも揃って民に重い税を課しては苦役を強い、何十年もの間奪取を繰り返してきた為、民たちはローレンスの改革に大いに喜んだ。

新王となったのは、帝国へ婿入りをしていた第二王子のヴァレリアンであった。人々は驚いたが、大勢の護衛とともに城に入ったヴァレリアンの姿を見て、感嘆の息を零していたという。

また、ある老人はこう云った。
──陽色の王が帰還なされた、と。



長い夜が明け、いくつかの季節が過ぎ去り、王国にまた春がやってきた頃。

ある種の花を咲かせるために王国の庭師となったシェバスの元に、ひとりの子供が駆けてきた。

「──シェバス!僕を隠して!」

明朗な声に、花の手入れをしていた老人は目元の皺を増やし、元気に駆けてきた子供を抱き留めた。

「これはこれは、殿下ではありませぬか。またサボられるので?」

「シェバスなら喜んで協力してくれるって、ローレンス伯父上が言ってたんだ」

「…全く、あの御方は」

遠くから少年の名を呼ぶ声が聞こえる。おそらくまた勉学をさぼってここに逃げ込んできたのだろうとシェバスは察していたが、こんな事が遠い昔にもあったと思い返しているうちに、お迎えが目の前まで来ていた。