「何を仰るのです! 私があの子を傷つけるわけがないでしょう?!」
「ならば何故、我らの弟であるローレンスのことには触れぬのだッ!?」
「っ……!」
縋るような声で関与を否定をしたエレノスは、呆然とした表情でルヴェルグを見上げていた。
声を荒げたルヴェルグは玉座から立ち上がり、肩で息をしながらエレノスを見下ろしている。その眼差しは深い悲しみで満ちていた。
「……そなたがクローディアを傷つけることはないと、分かっている。私はそなたらが生まれた時から共に在る、兄だからな」
「あにう──」
「だがそなたが一番大切にしているものは、アウストリア皇家ではなく、クローディアだろう。我らのことも大事に想ってくれていただろうが、そなたの一番はいつだってクローディアだった」
信じていた。エレノスがクローディアのことを傷つけることは決してないと。それは同じ血を引き、生まれた時からその傍で慈しみ、深い愛を注いできた存在だからだ。
だが、エレノスにとってローレンスは弟でしかない。ルヴェルグが兄でしかないように。ふたりはクローディアとは並んでいないのだ。


