「お兄様がっ…!?」
クローディアは今にも飛び出しそうな勢いでルヴェルグの傍に駆け寄ったが、報告に来たセヴィが頭を垂れたまま入り口にいるので、その向こうに行くことが出来なかった。まだ何か伝えなければならないことがあるのだろうか。
「申せ、セヴィ」
「オルヴィシアラの王太子殿下も、ご一緒です」
「フェルナンド殿下が? なにゆえこのような時に」
「力になれれば、と仰っていましたが…」
セヴィは膝をついたまま顔を上げ、部屋の奥にいるリアンを見遣った。それから何かを察したのか、ルヴェルグはセヴィだけを連れて部屋を出て行った。
クローディアもその後を追おうとしたが、リアンがクローディアの手を掴んで引き留めた。
「リアン、どうして止めるの…?」
「忘れたの? エレノス様が疑われてること」
「分かっているわ。…でも、話してみないと分からないじゃない」
「話をして、分かることなの?」
棘のある言い方に、クローディアは口を閉ざした。
話さなければ分からないことを教えてくれたのは他ならぬリアンだというのに、どうしてそんなことを言うのか。
クローディアは呆然とリアンを見つめていた。
「……ごめん」
何に対する謝罪なのか。小さくそう呟いたリアンはクローディアの手を握ったまま歩き出し、執務室を出た。
先を行くリアンの背中から、その考えを読み取ることはできない。けれど、クローディアのエレノスに対する家族の愛情が、誰よりも大きく強いことを分かってくれたのだろう。
たとえエレノスが事件に関与していたとしても。何か理由があってのことだと、クローディアは誰よりも信じているから。


