オルシェ公爵家の本邸から皇都までは、馬を飛ばして半日の距離だ。公爵領と隣国──オルヴィシアラとの境にある大河と繋がっている川を渡ると、アウストリア皇城は見える。

「──もうすぐ着くよ。ディア、お尻は大丈夫?」

公爵領を出た二人は馬に乗って皇都へと向かっていた。

「大丈夫じゃないわっ…」

クローディアは泣きそうな声で言ったが、向かい風に逆らうように馬を走らせている今、この声は目の前にいるリアンに届かないだろう。

クローディアは今、リアンと同じ馬に跨り、リアンの腰に手を回している。乗馬は皇族の嗜みだが、クローディアは身の安全のために許されなかった。だからこれが初めての乗馬だ。

(……馬って、こんなにも背が高いのね)

リアンの光の色の髪が風に靡いている。それに触れることができたのは、つい昨夜のことだった。

髪に触れてみてもいいかと尋ねたクローディアを、リアンは目を丸くさせて驚いていたが、すぐに笑んで頷いた。さらさらとしていたリアンの髪は高価な糸のようで、ふんわりとお日様の匂いがした。

「ディアを馬に乗せたって義兄様方に知られたら、怒られるだろうな」

「ふふ、そうね。ベルにも止められたけど、一刻も早く帰りたかったから」

クローディアをよく知るベルンハルトは、馬を飛ばして帰ると言ったことにとても驚いていた様子だったが、それならば一緒に乗ろうとリアンが手を差し出してくれたのだ。

(…リアンはいつも、私に手を差し出してくれる)

悲しい気持ちになった時、困った時、嬉しかった時。

思い返せば、リアンはいつも手を差し伸べてくれていた。そんなリアンにクローディアも優しさを返せているだろうか。