「……おにいさま、は…」

口元を押さえながら、クローディアは声を搾り出した。

エレノスはクローディアが生まれた時からずっと傍にいてくれ、深い愛情を注いで育ててくれた人だ。嬉しい時も悲しい時も、どんな時も一番近くに居てくれた、かけがえのない家族。

───だけど。

顔を上げて、隣にいるリアンを見つめる。自分だけを映している澄んだ美しい青を見ていると、なんだか心が凪いでいくようだ。

(……冷静にならないと。お兄様たちのように)

クローディアは大きく息を吐くと、必死に頭を働かせた。

これは、もしもの話だ。もしも兄エレノスが全ての犯人だとしたら、その目的はなんだろうか。その先で何を見ているのだろうか。あの優しい、ヴァイオレットの瞳で。

「………ローレンス兄様とリアンを襲って、そして皇帝にならなければ、できないことがある…?」

リアンが言っていたことを並べて、口に出してみただけだが、実際に声に出してみると兄が何かをしようとしている“かもしれない”ということが浮かび上がった。

「俺はそう考えたんだ。もう少し言うと、ディアには手を出していない。あの日ディアが俺と居たのは偶々で、ディアが予定をキャンセルしたのは皆知ってたはずだから」

「…そうね、私は思い立って、飛び出してしまったから…」

そのせいでリアンと共に事故に巻き込まれたが、それがきっかけで今度こそ話をすることができた。もう一度約束を交わすことができたから、結果として良かったのかもしれない。

「エレノス様は何かをするために、王国に行ったはずだから。その目的を知れたらいいんだけど」

こんな時、もう一人の兄ならどんな言葉をくれるだろうか。いつだって遠くを見つめている、誇りと威厳に満ちたこの国の皇帝は。

「……リアン、城に戻らない? ルヴェルグ兄様に逢いたいわ」

リアンも同じことを思っていたのか、間髪入れずにクローディアの言葉に頷くと、速やかに立ち上がって手を差し出してきた。