「──ねえリアン。どうしてお兄様は、王国に行ったのかしら」

公爵邸に来てから二日目。ふたりは朝食を頂いた後、客間の暖炉の前で椅子を並べて座っていた。

昨日のクローディアはセリエスの言葉に酷く狼狽していたようだったが、一晩経ってから落ち着いたのか、リアンに話をしようと言ったのだ。

「招かれたから、と考えるのが妥当だろうね。親交があったのは確かだから」

「それだけで、皇帝の座を狙っていると思われてしまうものなの?」

祖父が言っていたことは理解している。だが、納得ができないのだ。兄はただ招かれただけかもしれないのに、皇爵だからという理由であんな風に言われてしまったことが。

「確かに早計だとは思うよ。…けど」

「けど……?」

リアンは隣にいるクローディアの頬を撫でた。

エレノスのことは優しい義兄だと思っている。いつも穏やかに微笑みながら、クローディアのことを見つめている人で。

結婚式を挙げた日も、妹を頼むと頭を下げてきたし、妹が好きな物だからと言って手作りの紅茶の茶葉を贈ってくるような人だ。

そんな優しい人が、妹を悲しませるようなことをするだろうか。

「何か理由があったにせよ、してはまずいことをしてしまったから…そう、思われてしまったんだと思う」

「滞在理由を言わなかったから? それとも相手が国王ではなく王太子だから? それともっ…」

「落ち着いて、ディア」

次々と早口で捲し立てるクローディアを、リアンはそっと抱き寄せた。らしくもない姿に胸が痛んで、抱きしめる腕に力が入る。