セリエスはラインハルトの父で、クローディアの祖父だ。ルヴェルグらの祖父であるアドニス皇帝の寵臣の弟でもあり、皇帝一族からの信頼は厚い。ルヴェルグも実の孫のように可愛がってもらった記憶がある。
「……そうか。セリエス殿が…」
ルヴェルグは右手の人差し指に嵌っている、皇帝の紋章が彫られた指輪に目を落とした。花の部分が薔薇の蕾になっているものを、エレノスも持っている。皇帝に次ぐ権力者の証であり、自身に万が一のことがあった時にこの国を導く者である証だ。
ルヴェルグはラインハルトの灰色の瞳を見つめ、ゆっくりと唇を開いた。
「……セリエス殿が言いたいことは分かる。だが、エレノスはクローディアが悲しむことはしないはずだ。絶対に」
王座など要らない、家族と穏やかに暮らせたらそれでいいと微笑み、妹の幸せを一番に願っていた優しい弟が、家族を裏切るようなことをするだろうか。
「私も陛下と同じ気持ちです。閣下は…甥は、家族想いな優しい子ですから」
ルヴェルグは口元を緩めて頷いた。
「エレノスが戻ってきたら、王国の土産話を聞くとしよう。今はそれよりも、ローレンスの捜索が先だからな」
兄上、と無邪気に笑っていたもう一人の弟の姿が浮かぶ。
最後に顔を見たのは大雨の日の朝で、生憎の天気だが商談に行くと言っていた。
(──早く私の元に戻ってきてくれ、弟たちよ)
理由も言わずに王国に滞在すると言い、行ってしまったエレノス。そして突然行方不明になったローレンス。無事が確認されたが、事故に巻き込まれたクローディアとヴァレリアン。
この頃様子がおかしかったエレノスと無関係であることを祈るばかりだ。
「……そうか。セリエス殿が…」
ルヴェルグは右手の人差し指に嵌っている、皇帝の紋章が彫られた指輪に目を落とした。花の部分が薔薇の蕾になっているものを、エレノスも持っている。皇帝に次ぐ権力者の証であり、自身に万が一のことがあった時にこの国を導く者である証だ。
ルヴェルグはラインハルトの灰色の瞳を見つめ、ゆっくりと唇を開いた。
「……セリエス殿が言いたいことは分かる。だが、エレノスはクローディアが悲しむことはしないはずだ。絶対に」
王座など要らない、家族と穏やかに暮らせたらそれでいいと微笑み、妹の幸せを一番に願っていた優しい弟が、家族を裏切るようなことをするだろうか。
「私も陛下と同じ気持ちです。閣下は…甥は、家族想いな優しい子ですから」
ルヴェルグは口元を緩めて頷いた。
「エレノスが戻ってきたら、王国の土産話を聞くとしよう。今はそれよりも、ローレンスの捜索が先だからな」
兄上、と無邪気に笑っていたもう一人の弟の姿が浮かぶ。
最後に顔を見たのは大雨の日の朝で、生憎の天気だが商談に行くと言っていた。
(──早く私の元に戻ってきてくれ、弟たちよ)
理由も言わずに王国に滞在すると言い、行ってしまったエレノス。そして突然行方不明になったローレンス。無事が確認されたが、事故に巻き込まれたクローディアとヴァレリアン。
この頃様子がおかしかったエレノスと無関係であることを祈るばかりだ。


