──『私はこれを返さねばならないのだ』
真っ暗闇の中に、ぽつりと光が灯る。それに照らされ浮かび上がっていたのは、王冠を被っている父と玉座だった。その足元には幼い頃の自分がいて、不思議そうな顔で父を見上げている。
(───夢)
自分はここにいるのに、あちらにもいる。だがあちらに映っている自分は今よりもずっと幼く、父も若い。まだ壊れる前の家族の姿を見たら、重い息が出た。
あの日、父は息子に玉座を返さなければならないと言った。誰に返すのか、何故返すのか。それは自分が受け継ぐものであり、父のものではないのか。そう尋ねた自分に、父は曖昧に笑うと王冠を下ろした。
──『これは私のものではないのだ。私の父でもお前のものになるものでもない。祖父が犯した罪を贖うために、我らは──』
父王が何を言っているのか、話の意味は分かっていた。けれど自分は理解したくなかった。今その手にあるものはそう遠くない未来に自分に譲られるものなのに、譲られるべきものなのに──これから生まれてくる人間に渡すと言うのだ。
王にのみ伝えられてきた話を聞いたあの日から、自分の中の何かが壊れた。父への感情を失くした自分は、父が父でなくなる方法を考え、触れてはいけないものに触れ、掴んだ。
仕方のないことなのだ。だって、父は自分を差し置いて、──を選ぶと言ったのだから。
そうしてやってきた、──が生まれた日。
誰もが同じ声を上げる中で、自分は一筋の涙を流した。
真っ暗闇の中に、ぽつりと光が灯る。それに照らされ浮かび上がっていたのは、王冠を被っている父と玉座だった。その足元には幼い頃の自分がいて、不思議そうな顔で父を見上げている。
(───夢)
自分はここにいるのに、あちらにもいる。だがあちらに映っている自分は今よりもずっと幼く、父も若い。まだ壊れる前の家族の姿を見たら、重い息が出た。
あの日、父は息子に玉座を返さなければならないと言った。誰に返すのか、何故返すのか。それは自分が受け継ぐものであり、父のものではないのか。そう尋ねた自分に、父は曖昧に笑うと王冠を下ろした。
──『これは私のものではないのだ。私の父でもお前のものになるものでもない。祖父が犯した罪を贖うために、我らは──』
父王が何を言っているのか、話の意味は分かっていた。けれど自分は理解したくなかった。今その手にあるものはそう遠くない未来に自分に譲られるものなのに、譲られるべきものなのに──これから生まれてくる人間に渡すと言うのだ。
王にのみ伝えられてきた話を聞いたあの日から、自分の中の何かが壊れた。父への感情を失くした自分は、父が父でなくなる方法を考え、触れてはいけないものに触れ、掴んだ。
仕方のないことなのだ。だって、父は自分を差し置いて、──を選ぶと言ったのだから。
そうしてやってきた、──が生まれた日。
誰もが同じ声を上げる中で、自分は一筋の涙を流した。


