狭く薄暗い部屋にひとり残されたローレンスは、しばらくの間考え事をしていたが、烏の鳴き声が聞こえてきた頃に顔を上げた。

尻と踵を引き摺るように動かして、窓辺へと身体を寄せる。そうして壁を使って立ち上がってみせると、窓の外を覗き込んだ。

橙色の空の下には、一面の海原が広がっている。そこに浮かんでいる船の旗は全て黒く、白い輪が逆さの三角形のような位置で三つ描かれている。周辺の建物は全て低い塔のような見た目で、四つ足のように建つ柱の中央には階段があった。

どうやらここは、オルヴィシアラ王国のようだ。

「………はて、どうやって帰るか」

ローレンスはずるずるとその場でしゃがみ込んだ。
自分は今、他国で監禁されている。それも実の兄の手によって。兄を止めなければならないが、まずはこの部屋から出なければならない。

武器も何もない今、どうしたものかと思ったその時──カチャカチャと鍵穴に何かを差し込む音が鳴ったかと思えば、静かにドアが開いた。

現れた人物を見て、ローレンスは今度こそ声を失った。

「──遅くなってしまい、申し訳ありません」

吹き込んだ風で、白い外套がふわりと靡く。夕陽を受けると黄金色に煌めいて見えたのは、白銀色の髪だ。

ローレンスは口元を緩めた。

「聞きたいことが山ほどあるのだが、後で聞いてもいいかね」

「いくらでもどうぞ。でもその前に、僕に恩返しをさせてくださいね」

そう言って、迷いのない足取りでローレンスの元まで来ると、その人は慣れた手つきでロープを切っていった。