ローレンスは必死に頭を働かせ、記憶を巡らせる。
シーピンク家の子息であるマリスを助け、別れた後──一度城に戻ろうとハインと話している時に、事件は起こった。
帝国で一番大きい孤児院が目の前で爆発したかと思えば、背後から複数人の男に羽交締めにされ、馬車に押し込まれたのである。
当然部下であるハインは主を助けるために剣を抜いていたが、傍にはローレンスの愛する馬のリリーが居た。だから自分に構わず逃げよと命令し、意識を失って──今に至るのだろう。
その首謀者が目の前にいる人でなければいいと、思う。
「兄上よ。いくつか質問をしても構わないかね?」
「勿論良いとも」
「では一つ目。僕をここに連れてくるよう命じたのは、兄上か?」
エレノスは頷いた。
「では二つ目だ。ここは帝国か?」
「いいや、違うよ。ここは私の同志の国だ」
「……三つ目。兄上の同志というのは?」
その質問にエレノスは答えなかった。だが答えは見えている。黒一色というエレノスの服装が語っている。
ローレンスはゆっくりと息を吸って、吐くと、目を閉ざした。
「……なるほど、理解したよ。兄上は我ら家族を捨てたのだね?」
「その逆だよ、ローレンス。私は悪しき者から妹を守るために、ここに来たんだ。君を連れてきたのは、遠ざけるためだよ」
「何から僕を……」
言いかけて、ローレンスは口を噤んだ。目を開いた先に飛び込んできたものが、あまりに美しくて──言葉を失ったのだ。


