死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる



──『お可哀想なアーシャ妃』

──『皇子を産んだというのに』

──『これではまるで鳥籠の中の蝶ね』

声が聞こえる。同情を滲ませながらも、どこか馬鹿にするような声音。幼い頃から聞いてきた、母への嘲笑。

母は立派に務めを果たしたというのに、何を言うのかと反論しようとしたが、声が出せなかった。

一歩先すら見渡せないほど真っ暗な闇の中、声は幾度も幾度も木霊し、ローレンスの身体に薔薇の棘のように絡みつく。逃れようとすればするほど、底なし沼に足を踏み入れたかのように身体が沈んでいく。

これは罰だろうか。周囲からの陰湿な陰口で心を病み、病を患った母を救えなかった自分への。そんな自分に手を差し伸べてくれた人を、殺してしまったことへの。

──『皇帝は、私を愛せないと言った。誰のことも愛さないと言っていたのに、その瞳はいつも──』

首を絞められるような圧迫感と共に呼吸が苦しくなり、ローレンスは必死で手を伸ばした。しかし、その手の先には何もなく、次第に視界も閉ざされてゆく。

その時だった。真っ暗闇の世界に眩い光が差し込み、白い手が差し出されたのは。

──『伯父上』

花を揺らす風のように柔らかな声が、呼んでいる。
でもそれは自分に向けられたものではない。自分には甥も姪もいないのだから。

(───君は、誰だ?)

そんなローレンスの声に応えるかのように、強い風が吹き荒れる。思わず目を瞑って、そうして吹き止んだ後に目を開くと──一面の光の中で、遥か遠くで白銀色の髪を靡かせる誰かが居た、気がした。