「お祖父様、それじゃあまるで、エレノス様は帝国を…」
「ほぼ間違いないだろう。二人が居た孤児院が爆破され、ローレンス殿下が連れ去られたのだからね」
あまりに簡潔な、きっぱりとした言葉に、クローディアは何を言われたのかわからなかった。口を開けたまま呆ける三人に、セリエスは固い声で告げる。
「皇位簒奪を目論んでいるのは確かだ。──自分の意志で」
「うそよっ…」
クローディアは勢いよく立ち上がり、厳しい顔をしているセリエスを見つめた。泣きそうになるのを必死でこらえ、震える手でドレスの裾を握りしめる。
「嘘よ! お兄様は私を置いて行ったりしないわっ…!」
「クローディア」
「言ったものっ…。お兄様は、ずっと愛しているって……」
生まれた時からずっと傍にいて、慈しみ、惜しみない愛を注いでくれたあの優しい兄が、家族を捨てるなんて絶対にあり得ない。それを身を以て知っているクローディアは、兄が家族に背こうとしているなんて信じられなかった。
「……私だって、信じたくはない。だがね、そう思われても仕方のないことをしたのだ。現にあの子は隣国に行っていて、ローレンス殿下はこの近くで襲われた。現場にあったのはオルヴィシアラの矢だ」
「………うそ。エレノスおにいさまは、そんなこと…」
「あの子の優しさは、私も知っているよ。だがね…」
その言葉の続きをセリエスは発さなかった。クローディアの隣にいたリアンが、首を横に振って拒絶の意を示したからだ。
セリエスはゆっくりと息を吐くと、ベルンハルトを連れて部屋を出て行った。


