「……お国の海のような、綺麗な目をしていらっしゃる」
セリエスは自身が公爵家の当主を務めていた頃、隣り合っていたオルヴィシアラの領主と懇意にしていたという。美しい灯台がある港町が好きだったと語ると、クローディアとリアンを椅子に案内してくれた。
「導の灯台は私も好きです。よくあの上から遠くを見ていました」
「美しい国ですからね、オルヴィシアラは。……エレノスが惹かれるのも無理はない」
最後の一言で、部屋の中の空気が静まり返った。リアンは口を開けたまま固まり、その隣にいるクローディアは俯いた。まさか兄の名前が出るとは思わなかったのだ。それも、不穏な空気を纏って。
「……お祖父様。エレノス様は滞在されるだけなのですよね? フェルナンド殿下とは仲が良いと聞きましたし」
「皇帝の不在時にその全ての権限を持つ地位にある皇爵が、たかが一国の王太子に招かれ他国に行くなど言語道断だ」
「でも、仲が良いんですよ? 私邸に招いていたそうなのですから」
「甘いな、ベルンハルト」
セリエスの瞳に鋭い光が宿る。その目に射抜かれたベルンハルトは言葉を失ったのか、ごくりと喉を鳴らしていた。
「国家間に友情など存在しない。それを誰よりも解っているはずの皇爵が、何の利益もない国に滞在するのだ。私が何を言いたいのか分かるか?」
争いごとを嫌い、芸術を愛する穏やかな人物として知られていた、先代のオルシェ公──それがセリエスだ。だが、リアンは彼が大戦の時代と云われたアドニス皇帝の治世では、皇帝の剣として戦地を駆けていたのを知っている。


