夜が明けた頃、二人はオルシェ公爵領の騎士に発見され、公爵家の本邸で保護された。
ラインハルトからの早馬で二人のことを知ったベルンハルトが、先代当主であった祖父に相談を持ちかけ、祖父の助言で川岸を中心に捜索していたら見事に的中したという。
「──ごめんね、ちゃんと身体も休めていないのに」
二人は今、本邸の回廊をベルンハルトと歩いている。入浴と軽食を取った二人は、祖父が待つ部屋に案内されていた。
「気にしないで。私もお祖父様に会いたかったから」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
ベルンハルトはふんわりと笑う。そして一際大きな扉の部屋の前で足を止めると、一呼吸してからドアを叩いた。
この先で待つ祖父は、共に住んでいるはずのベルンハルトでさえ緊張するほどの人物なのだろうか。
記憶の中に祖父の顔も声もなかったクローディアは、大きく息を吸って、祖父からの返答を待った。
「──入りなさい」
記憶にない祖父の声は、深く温かみのある、穏やかなものだった。開かれた扉の先には、気品のあるスーツを着ている長身の男性が立っている。その長い白髪は後ろで束ねられ、瞳の色は濃いグレイだ。
「よく来たね、クローディア」
──セリエス・オルシェ。クローディアの母、ソフィア皇妃の父親である祖父は、ラインハルトよりもエレノスに似ている優しげな面立ちの男性だった。


