次々と舞い込む予期せぬ悪い報せに、ひとつも動じない皇帝などいない。だがそのようにしてみせるのが皇帝というものだと教えたのは、ルヴェルグの師であり現宰相でもあるウィルダン=グロスターだった。
「──陛下。大至急エレノス閣下を呼び戻されては?」
ウィルダンは指先で眼鏡を押し上げると、表情一つ変えずに冷静な声音で助言をした。こんな時も変わらない師の声に、ルヴェルグの中の何かが灯る。
ルヴェルグはふらりと立ち上がると、いつもの凛とした表情で室内にいる面々を見渡し、口を開いた。
「ラインハルト、至急オルヴィシアラへ連絡を」
「かしこまりました」
「護衛よ、副騎士団長に各関所に伝令を送り、検問を行えと伝えよ」
「はっ!」
「ハイン卿は第二騎士団を連れ、先にローレンスの捜索を。宰相はマルセルをここへ、その後は謁見の間で待機せよ。私は騎士団長を連れ、後ほど下で合流する」
「御意、我が君」
取り急ぎの一通りの指示を飛ばしたルヴェルグは紫色のマントを翻し、颯爽とした足取りで執務室を出て行く。それに続いて、側近たちも自分たちのすべきことをするために駆けて行った。


