二人の身を案じると同時に、突然起きた事故について考えるルヴェルグの斜め後ろで控えていたラインハルトは、険しい表情で口を開く。

「……陛下。急ぎ捜索隊を編成し、向かわせましょう」

「ああ、そうしてくれ。被害の状況は?」

「孤児院の者は怪我人が二十名ほど、死者はおりません。半数以上が外に出ていたのが不幸中の幸いでした」

ルヴェルグはまた息を吐くと、指先で机を弾いた。
今朝の雨が嘘だったかのようによく晴れたから、子供たちは遊びに出たのだろう。孤児院の人間が全員無事であったことは吉報だが、家族の安否が分からない今は喜ぶことができなかった。

そこへ、扉の向こうから慌ただしい足音が聞こえたかと思えば、勢いよく扉が開かれた。

「──陛下、ご無礼をッ!」

転がり込むように執務室に現れたのは、ローレンスの側近であるハインだった。急いで来たのか、髪も服装も息も乱れている。

「ハイン卿。何事だ?」

ルヴェルグはハインに駆け寄ると、その肩に触れた。ローレンスの身にも何か起きたのか、ハインの身体は震えている。

「も、申し上げます…」 

「早く申せ。何があった?」

「ロ、ローレンス殿下がっ……」

「ローレンスがどうしたと言うのだ!」

ハインはくしゃりと顔を歪める。それを隠すように顔を俯かせると、絞り出すような声で言った。

「ローレンス殿下が、何者かに連れ去られました…」

「───ッ!!」

今度こそルヴェルグは息の仕方を忘れ、ヴァイオレットの瞳を大きく見開いた。