──アウストリア皇城。それは、帝国の中心である大都市・帝都シヴァリースの中央に聳える巨大な城だ。歴代皇帝が政務を執り行ってきた場所である皇宮に、ある凶報が届いた。

「──クローディアとヴァレリアン殿下が行方不明だと!? 一体何事だ!」

容姿端麗、頭脳明晰、沈着冷静。誇りと威厳に満ちており、自己にも他者にも同様に厳しいことで知られている帝国の皇帝・ルヴェルグ一世は、南宮の騎士からの報告を受け、声を荒げた。

その隣に皇帝の右腕であるエレノスの姿はない。もう一人の弟であるローレンスの姿もなく、執務室では皇帝と宰相とラインハルトの三人が話し合いをしているところだった。

剣を立て、片膝を着いて首を垂れている騎士は声を上げる。

「申し上げます。ヴァレリアン殿下が孤児院を訪問中に、皇女殿下も合流され、それからすぐのことでした。突然孤児院が爆発し、お二人は建物の中にいた子供を救出され、そのまま戻らずっ……!」

「何故二人を行かせたのだ!」

「仰る通りでございますっ……申し訳ございません……」

ルヴェルグは大きく息を吐くと、机の下で足を組んだ。

ヴァレリアンが孤児院を訪問するのはよくあることで、行き先は日々事前に報告を受けている。だが今朝は大雨が降っていたので、予定を中止していると思っていたのに、皇女夫妻の住まいを訪れたらヴァレリアンは不在だった。

そして、ヴァレリアンの行き先で、爆発が起きた。そこには数時間前に会ったばかりのクローディアも来ていた。こんな不運な事故が起きるとは。