──ローレンス・ジェラール・アウストリア。
帝国の先の皇帝の第三皇子であるローレンスは、ジェラール家が代々継いできた紫色の髪をタオルで拭きながら、中々目を覚まさない少年を見下ろしていた。
この少年の髪色は白銀色で、帝国の公爵家であるオルシェ一族が遥か昔から繋いできた色だ。滅多にお目にかかれるものではなく、ローレンスもこの髪色を見るのはオルシェの血を引く者以外で初めてだった。
(オルシェ家の血縁だろうか)
あの雨の中で倒れていた少年は、ローレンス自ら近くの宿に運び込んだ。速やかに医者を手配し、衣服を替えさせると、少年が静かに眠れるよう両隣の部屋の料金も払った。
医者は疲れが溜まっての発熱だろう、と言っていた。重い病ではないことに胸を撫で下ろしたローレンスは、隣の部屋で自分も着替えると、ハインからタオルを受け取り少年が眠る部屋に戻った。
ローレンスは少年が身につけていた服を手に取ると、その素材を確かめるように指でなぞっていった。
生地はどっぷりと水を吸っていても手触りがなめらかで、一見地味な色合いをしているが、金色のボタンは薔薇の花の形で、袖口の刺繍はとても繊細なものだった。下に着ていたブラウスも同様に、控えめながらも美しいデザインで、この少年がそこらの民ではないことを証明している。
貴族階級以上の出身だろうと考えたローレンスは、首にタオルをかけたままベッドサイドの椅子に腰を下ろすと、書類に目を通していった。
山積みだった書類が半分を切った頃、眠っていた少年がもぞりと動いた。その音でローレンスは立ち上がると、手に持っていたものを放り投げて少年の顔を覗き込んだ。
薄らと開かれた瞳は、綺麗な菫色だった。


