その日は大地を叩きつけんばかりの強い雨が降っていた。誰もが家で大人しく過ごすであろうという、この悪天候の中。外套で顔を隠しながら馬を走らせていた男・ローレンスは、道の端で人が倒れているのを見つけると、瞬発的に手綱を引いて馬から降りた。

「──殿下! 一体何事でっ…」

ローレンスの部下・ハインは、突如馬から降りるなり何かに駆け寄っていったローレンスの後を追ったが、その先に飛び込んできたものを見て目を見開いた。
なんと、ローレンスが倒れていた人を抱き起こしたのである。それも女ではなく男を。

「………殿下、そのお方は…?」

ハインはひたすらに瞬きをしながら、主人とその腕の中でぐったりとしている人物を交互に見つめた。倒れていたのは少年のようだ。

「どこの誰なのかは分からないが、呼ばれた気がしたのだよ」

ふ、とローレンスは静かに微笑むと、自分の片腕に乗せた頭をゆっくりと膝の上へと動かし、胸元からハンカチを取り出して泥だらけの顔を拭いていった。

一体どれほどの間、ここで意識を失っていたのだろうか。固く閉ざしている瞼が開く気配はなく、熱があるのか頬は火照り、息は乱れている。

「ハイン。申し訳ないが、今日の予定はキャンセルさせてもらうよ。急いで近くの宿を探してくれ」

「はっ! ではその方を運びます」

「いや、僕が運ぶよ。君は宿を」

ローレンスは外套を脱ぐと、びしょ濡れの少年に掛けて抱き上げた。すると、少年が頭部を覆うようにして被っていた布が、音もなく地面へ落ちていく。

ローレンスはそれを拾うために屈もうとしたが、あらわになった少年の髪の色を見て固まった。

たっぷりと水を含み、滴を落としていくそれは、愛する家族によく似た白銀色だった。