「──やはり殿下の言葉は真実だったようです。晩餐会にてアルメリアの名を出したところ、クローディアの様子が変わりました」


時は少し遡ること、昼過ぎ。リアンが邸を出て行ったのを見届けたエレノスは、別室で控えてもらっていたフェルナンドの下に行った。

信じ難いことが真実であることを知ったエレノスは、早々に人を送ってフェルナンドを私邸に招いたのだが、いざ話をしようとしたタイミングでリアンが訪ねてきたのだ。

「嗚呼、やはりクローディアも私と同じく、二度目の生をっ…。なのに、私のことを誤解したまま、悍ましい罪を犯した男を選ぶとはっ……」

「フェルナンド殿下…」

うう、と泣くフェルナンドはハンカチで目元を押さえながら、縋るような目でエレノスを見る。リアンとはまた違った魅力を持つ青色の瞳からは、大粒の涙が惜しげもなく転がり落ちていた。

「アルメリアは、クローディアと貴方様と同じ銀色の髪と菫色の瞳を持つ、玉のように美しい御子でしたっ…」

エレノスは大きく目を見開いた。子の名前であることは聞いていたが、オルシェの血筋を色濃く引いた容姿だったとは。

「貴方様にも、抱いて頂きたかったっ……」

さぞかし可愛い子だったのだろうな、と思う。

泣き崩れるフェルナンドの背を摩りながら、エレノスは瞼を下ろした。


やはり今からでも、クローディアとヴァレリアンの婚姻を無効にするべきだろうか。だがそれをする大義名分がない。

まずはクローディアのフェルナンドへの誤解を解くのが先だろう。愛しい妹は美しい王子に騙されているのだろうから。

(──ディアを失うわけには、いかない)

殺される前に、手を打たなければ。
あの美しい王子を、妹から引き離さなければ。
そう心に決めたエレノスは長い髪を束ねると、フェルナンドに手を差し伸べた。