「ディア……」

リアンが名前を呼んだのと、細い腕の中に閉じ込めてきたのは同時だった。クローディアをぎゅっと抱きしめる力は強く、温かい。ひとりの男の人だと改めて思い知る。

──そうだ、もう逢えない。

リアンの言う通り、アルメリアはもう二度と逢えない人の名前だ。クローディアは自分のために、フェルナンドではなくリアンを選び、別の道を歩み始めた。

だからもうアルメリアには出逢えない。この道の先に、一度も抱きしめることが叶わなかったあの子はいないのだ。

啜り泣くクローディアの背を、リアンは優しい手つきで撫で始めた。

「……嫌なこと、聞いてごめん。ディアのことが、知りたくて」

「知りたいからって、酷いわ。聞かないでと言ったのに」

「ごめん、ディア」

リアンは何度も謝り続けた。そんなリアンの腕の中で、クローディアは涙を流し続けた。

やがて夜が明けると、泣き疲れたクローディアは吸い込まれるように眠りに落ちた。

リアンはさいごに流れた涙を指先で拭うと、こんな姿でさえ美しいクローディアの頬を撫で、額にそっと口付けを落とした。

形だけの夫であるリアンに、クローディアに口づけをする権利はない。だが、アルメリアという人物がもう逢えない存在であると知った今、そうせずにはいられなかった。

リアンはクローディアのそばにいると誓ったのだ。いつか自分の存在が要らなくなる日まで。