「…どうしても何も、アルメリアは私とクローディアの母の生家であるオルシェ家の象徴の花ですから。毎年咲いている花を、今年も見たいと願うのは特別なことでしょうか?」
ふふ、とエレノスは笑う。あまりにも綺麗に微笑むから、リアンは言葉を飲み込んでしまった。
そうか、そうなのかと。ただそれだけなのか、と。
不思議そうな目でリアンを見るエレノスは相も変わらず優美な微笑みを浮かべていて、とても嘘をついているようには見えなかった。
──否、嘘をつくような人ではないのだ。フェルナンドとは違って、家族のことを一番に考えている優しい人なのだから。
エレノスはゆっくりと立ち上がると、黙り込んだリアンの肩に手を置いた。それを辿るように視線を上げると、優しい笑顔が目に入る。だが、それと同時にある物が目に留まったリアンは、青色の瞳を見開いた。
「あの花は…!」
「申し訳ないのですが、これから来客があるのでお引き取りください」
エレノスはリアンの言葉を遮ると、有無を言わせない笑顔を浮かべ、扉へと向かって手を差す。飾られたようなそれは、これ以上話すことはないのだと遠回しに告げているようで。
だがリアンは今、黙ってそれを受け入れるわけにはいかない理由を見つけてしまった。なぜなら、この部屋の花瓶にはある花が生けられていたからだ。
それは王国でしか見ることができない、極めて珍しいもので、この世で最もリアンを憎んでいる男が一番好きな花だった。
それがここにあるということは、あの男がエレノスに近づいたという何よりの証だ。


