翌日、リアンは眠っているクローディアを起こさないように部屋を出ると、エレノスの邸を訪ねた。白一色で統一された邸は美しく、水辺のある庭園では鳥たちが囀っていたが、どことなく寂しさを感じたのはリアンだけだろうか。


「珍しいですね。ヴァレリアン殿下が私を訪ねて来られるとは」

エレノスはルヴェルグとの約束通り、今日から数日は政務を休むようで、胸元辺りまである髪は下ろし、ゆったりとしたシャツに細めのパンツというラフな格好をしていた。

「どうしても聞きたいことがあるので。ご多忙だというのに、すみません」

「よいのですよ。貴方は私の義弟(おとうと)なのですから」

エレノスは優美に微笑むと、自ら紅茶を淹れてくれた。芸術品のように美しいティーカップからは、ほのかな林檎の香りがした。

「──それで、私に聞きたいこととは何でしょう?」

リアンは真っ直ぐにエレノスを見つめた。

クローディアと同じ銀色の髪と菫色の瞳を持つエレノスは、百合の花がよく似合う優雅で美しい男性だ。皇帝の弟である彼は、国内唯一にして最高位である皇爵の地位にある。

貴族の頂点に立つ者として、時には皇帝の代理人として忙しない日々を送っているエレノスのことは、誰もが慕っているとか。

「…先日の晩餐会で、閣下はアルメリアについて尋ねられましたよね。それはどうしてですか?」

そうリアンが問いかけると、エレノスはカップを置いた。