寝室を出たリアンは、汗を流すために下の階へと向かって歩いていた。白い螺旋階段を下りると、大きな白い玄関扉と青色の敷物がリアンを出迎える。その手前を曲がろうとした時、玄関の扉が開かれ二人の人間が姿を現した。
唇を開いたまま固まるリアンを見て、二人は笑った。
「──突然すまないな」
「ディアの様子が気になってしまったのだよ」
やって来たのはルヴェルグとローレンスだった。護衛も付けずに来たのか、二人とも剣を持っている。
リアンは二人をもてなすよう使用人を呼ぼうとしたが、ルヴェルグは「構わなくていい」と断ると、リアンとローレンスの腕を掴んで一番近くにあった部屋に連れ込んだ。
「単刀直入に聞こう。ディアの様子はどうだ?」
クローディアは体調不良で下がったわけではないことに、ルヴェルグとローレンスは気づいていたようだった。気づいていながら、あの場では何も言わずに帰し、こうして心配して忍んで来るとは、なんと妹想いなことか。
この場にエレノスが来ていないことが気がかりだったが、病み上がりだから二人に止められたのだろう、きっと。
「落ち込んでいる、というか、心ここに在らずというか。いい言葉が見つからないんですけど、元気がないのは確かです」
「そうか。やはりあの花の名に、何か特別な感情があるのだね」
ローレンスの言葉に、リアンは目を伏せた。
そう、それはリアンも気づいたことだった。花の話題を振られた時に、らしくもなくフォークを落としていたのだから。
だけど、その理由をクローディアは言ってくれなかった。「言えない」と言って、泣きそうな顔をしていたのだ。
そんなクローディアにリアンがしてあげられることは、これ以上クローディアが悲しい想いをしないよう、心を配ることしかできない。
「……何も、訊かないであげてください。どうかお願いします」
分かった、とルヴェルグは頷いた。ローレンスは腑に落ちない顔をしていたが、渋々といったふうに頷くと、二人は邸を出て行った。


