逃げるようにして晩餐会の会場を出た二人は、馬車に乗って南宮へと戻った。その道中で会話はなかった。クローディアのことを本当に具合が悪いと思ったのか、他に考え事をしていたからなのかは分からないが。
やがて二人の住まいである南宮に到着すると、リアンはクローディアの手を引いて寝室まで連れて行った。
リアンは首元のタイを緩めてボタンを一つ外し、クローディアは堅苦しいドレスから部屋着用の簡素なものに着替えた。そうしてリアンは使用人を全員下がらせると、クローディアは一人掛けのソファに、リアンはベッドサイドに腰を掛けた。
しばらくの間、二人の視線が交わることはなかったが、意を決したように立ち上がったリアンがクローディアの目の前で蹲み込んだ時、それは叶った。
「…今日の晩餐会で、何があった?」
どうやらリアンはクローディアの体調を気遣うふりをして、あの場所から連れ出してくれたようだった。クローディアの中で何かが起きていたことにも気づいているようだ。
(………言えないわ)
だからと言って、その原因となった理由は言えなかった。言えるわけがなかった。あの花の名は、ただの花の名ではないから、だなんて。
クローディアは自分の元へと歩み寄ってきてくれたリアンから目を逸らし、顔を俯かせた。


