「それはそうと、ローレンス」

「なんだね兄上」

いつになく芸術的な盛り付けがされていたある一品を見て楽しんでいたローレンスは、話しかけてきたエレノスへと目を向けた。優しげな菫色の瞳が一瞬不安げに見えたのは、気のせいだろうか。

「……南宮の庭園で、アルメリアが蕾をつけたそうだね」

白い花を咲かせるのだろうか、とエレノスは言うと、グラスに口をつけた。

「そうなのですよ。まさか兄上もその花を心待ちにしていたとは」

「他にも好きな人がいるのかい?」

「クローディアも好きなのだよ」

カラン、とフォークが大理石の床に落ち、音を響かせた。それは今の今までクローディアの手に握られていたものだ。

「………ディア?どうかしたのか?」

「な、なんでもないわ」

クローディアはぎこちなく笑うと、迅速に新しいものを持ってきてくれた使用人に礼を告げた。その顔から表情が消えていたのは言うまでもない。

(………どうして、アルメリアの話を?)

どくどくとクローディアの心臓が忙しない動きをし始める。この落ち着きのない気持ちが表に出ないよう、平静を装いながら微笑んでみせたが、兄たちは誤魔化せないようだ。

そんなクローディアのことを誰よりも見つめていたエレノスは、テーブルの下で片手を握りしめていた。