じっとアルメリアの蕾に見入っているクローディアの斜め後ろで控えているシェバスは、風に揺られている白銀色の髪を見つめながら、目元を綻ばせた。 

──アルメリアが蕾をつけたら皇女に報せて欲しい。
そうシェバスに頼んできたのは、皇弟であるローレンスだった。シェバスが造る庭はとても美しい、弟子入りをさせてくれ、と十年以上前にローレンスに言われた日から、ローレンスとは度々庭で共に花を愛でる仲である。


『──アルメリアを、ですか? 失礼ですが、何故…』 

『うむ、何故かと聞かれたら、僕自身にもよく分からないのだが、もうじきに咲くことをディアに教えたら、喜ぶのではないかと思ったのだよ』

『皇女殿下は、アルメリアがお好きなのですか?』

『……好き、ではあると思うのだがね』

そう言って、寂しそうに微笑んでいたローレンスと約束を交わしたのは、初秋だった。皇女と隣国の王子の結婚式のために、城中の庭を回っていた時に、今は目がまわるほど忙しいはずのローレンスが庭師の格好をして訪ねてきたのだ。 

『……分かりました。蕾をつけたら、一番に皇女殿下にお伝えするとお約束いたしましょう』

『ありがとう、お師匠殿』

その花である理由を知ろうとはシェバスは思わなかった。疑問には思ったが、アルメリアはオルシェ公爵家の象徴でもあるのだ。何も不思議なことではない。 

シェバスは今、あの時の約束を叶えられて良かったと思っている。蕾を嬉しそうに眺めているクローディアの姿を見ていたら、シェバスも温かい気持ちになっていた。

「ありがとう、シェバス殿。咲くのが楽しみね」

クローディアはシェバスにお礼をすると、迎えにきた侍女と共に建物の中へと戻っていった。

シェバスはその姿が見えなくなった後、手入れ道具の箱を手に花壇の前で膝をついた。この花の蕾を美しく咲かせることがシェバスの仕事であり、約束の続きなのだ。