クローディアとリアンの住まいである南宮──アウストリア皇城の南側に聳え立つ離宮の庭で、アルメリアが蕾をつけたという報せが届いたのは、月に一度の皇帝一族の晩餐会が行われる日の朝のことだった。 


「──アルメリアが?」 

「左様でございます。今年は白色が一番に」

アルメリアが蕾をつけたことを聞いたクローディアは、南宮の庭師を勤めている男性・シェバスの後ろを歩いていた。向かう先は無論庭園である。

シェバスは平民の出だが、オルシェ公爵家の先代当主であったクローディアの祖父が旅の途中でその腕を買い、帝都に連れてきたという。雇い主である祖父が当主の座をラインハルトに譲った後は、この南宮の使用人の一員となりのんびりと過ごしているようだ。

その腕は確かなもので、彼が魂を込めて手入れを施した庭は帝都の各地にあり、それを鑑賞するために国外から来る客も絶えない。

「あちらでございます。見えますかな?」 

石造りの小道を抜けると、シェバスはクローディアを振り返って深々とお辞儀し、前へと促した。クローディアが一歩足を踏み出すと、そこには大いに茂る緑の中に一点、小さな白い蕾があった。

「………これが、アルメリアなのね」

「この冬の最中にこの一つだけが蕾をつけたのです。不思議でしょう?」

ええ、とクローディアは頷いた。外は昨日まで連日の雨で、今日も怪しい空模様だというのに、ちょこんと蕾をつけるとは不思議なものだ。