「信じられないのは当たり前です。あのような話は」

あの話──それは、先日フェルナンドが言っていたことだ。俄には信じがたいそれは、フェルナンドが時を遡っているということ。正確には、ヴァレリアンが全ての元凶となり、凶行に及び──クローディアをあやめたという話だ。

「ですが事実なのです! このままでは、クローディアは殺されてしまうっ…!」

「そう仰られても…」

ダン、とフェルナンドは力強くテーブルを叩くと、身を乗り出す。

「閣下、嘘だと思うのなら、クローディアにアルメリアの名を出してみてください。彼女も私と同じく、時を遡っているので」

「何を──」

「そしてクローディアが少しでも変わった反応を見せたのなら、私のことを信じて欲しいのです」

エレノスは口を閉ざした。クローディアが時を遡っているかもしれないという疑惑は一時抱いたこともあるが、だからと言ってフェルナンドの話を鵜呑みにするわけにはいかないのだ。

エレノスの一番はクローディアで、フェルナンドは他人なのだから。

そんなエレノスを揺らすために、フェルナンドは椅子から立ち上がると、苦い顔をしているエレノスの耳元でこう囁いた。


──近いうちに、クローディアはヴァレリアンに殺されます。そしてその罪を背負わされるのは私。これは運命なのです、と。