「私はアウストリア帝国の皇女です。…私の一存では決められません」

「分かっています」

クローディアは真珠をフェルナンドに返そうとしたが、フェルナンドは首を横に振ってそれを断った。差し上げます、と微笑むと退出の礼をし、クローディアの前から去っていった。

(……オルヴィシアラの、王太子)

クローディアは空を仰いだ。世界の誰よりも自分を幸せにすると伝えてくれたフェルナンドの瞳と同じ色だ。

クローディアはこのアウストリア帝国の皇女だ。皇女として生を受けたからには、国の発展と未来のために、国に利益をもたらす国や有力な貴族に嫁ぎ、結びつきをつくるという使命がある。


これまでずっと兄たちに守られ、幸せに暮らしていたクローディアだが、自分が帝国の唯一の皇女であること、利用価値の高い政治の駒の一つであることは理解していた。

けれど、そのままでいいのだと、笑っていて傍にいてくれるだけでいいのだと兄たちが優しく微笑むから──クローディアはそれに甘え、幸せな箱庭に閉じこもっていた。

だが、いつまでもそのままではいられない。

クローディアは、この大陸一の国力を持つアウストリア帝国の皇女なのだから。

そう改めて思ったクローディアは、フェルナンドに貰った真珠をぎゅっと握りしめた。