結婚式の翌日である今日、皇宮の謁見の間では、皇女夫妻へのお祝いの挨拶をするべく沢山の貴族が訪れていた。

そのほとんどは結婚式への参列が許されなかった中流以下の貴族で、噂の皇女夫妻がどのような人物なのかを一目見るべく、煌びやかな贈り物を用意し、馳せ参じていた。

「──私はジョルジュ家当主代理で参りました。長男のフォーソンにございます。この度はご結婚おめでとうございます」

中流貴族の筆頭であった、ジョルジュ子爵の長男は、短い階段の上にある椅子に腰掛けている皇女夫妻に深く首を垂れた。しかしその下では、皇女が選んだ夫が隣国の第二王子であることを馬鹿にしていた。

献上した贈り物を、近くにいる側近が皇女夫妻の目の前へと運び、何を贈られたのか簡潔に伝えている。それを聞いた皇女は天使のような微笑みを浮かべ、お礼を伝えるとともに顔を上げるよう子息に声を掛けた。

畏れ多くも、子息は顔を上げて、その先に飛び込んできたものを見て目を見張った。

皇女クローディアが天女の如く美しいのは、この国で生まれた人間ならば誰もが知っている。だが、その隣に座る夫君ヴァレリアンも、目が眩むくらいに美しい青年だったのだ。

「──羽のように柔らかな手触りで、暖かいですね。孤児院の子どもたちに寄付してもいいでしょうか?」

「は、はい、それはもちろん──って、え、寄付……?」

皇女の夫に見惚れていた子息は、にっこりと笑っているヴァレリアンとその手元にある羽毛の織り物を交互に見て、目を白黒とさせた。

これはジョルジュ子爵領で生産しているもので、国外でも高値で取引されている高級な品だ。此度は結婚祝いのために、贅沢な一級品を作り上げ、贈ったというのに──皇女の夫は孤児院に寄付がしたいという。

それを断る権利も術もなかった子息は、ふらふらと謁見の間を後にした。


そんな子息を遠目から眺めていた麗しい貴公子は、秋の花束を手に、堂々とした足取りで皇女夫妻の下へと進み出た。

「──オルシェ公爵家次期当主、ベルンハルト殿の御成ー!!」

久しく会っていなかった従兄の名を聞いたクローディアは、菫色の瞳をふわりと和らげた。