ピンと糸が張るような、そんな感覚がエレノスの中を駆け巡っていく。

ローレンスの言葉と、フェルナンドの告白。そして、あの日のクローディアの不可解な行動と言動が結びついた。

(…そういうことだったのか。信じられない話だが、殿下の話が本当ならば、ディアの悪夢と繋がる)

これはエレノスの推測だが、クローディアが見た悪夢は、オルヴィシアラに嫁ぐもヴァレリアンに殺されて終わってしまった生涯のことなのだろう。

だからあの日、目が醒めたら自分が生きていて、帝国の自室にいたから、声を上げて泣いていたのだろうと考える。

それはすなわち、クローディアも時を遡っているということ。

(……なぜ、ヴァレリアン殿下を夫に選んだんだ?)

しかし、クローディアはフェルナンドではなくヴァレリアンを夫に選んだ。それは愛なのか、何か別の目的があるのか。

「……失礼いたします」

エレノスはゆらりと立ち上がると、フェルナンドに背を向けて、ガラス張りの天井の向こうにある青空を仰いだ。

フェルナンドは時を遡ってきたと言った。クローディアの幸せを願い、秘密を打ち明け、エレノスに救いを求めてきたのだ。

ならばエレノスは、それに応えるべきなのだろうと考えた。フェルナンドがかつての妻を愛しているように、自分もクローディアのことを大切に想っているから。

「……打ち明けてくださりありがとうございます、フェルナンド殿下」

エレノスは椅子に掛けていた上着を羽織ると、颯爽とした足取りでその場を後にした。


エレノスの姿が見えなくなった後、魂を抜かれたように椅子に座っていたフェルナンドは、突然目に光を宿すと、糸のように目を細めて笑った。